2月 9, 2013
文:菊地 佑樹
グランジ/オルタナティブが世界を震撼させ、イギリスでは、オリジナルなUKテクノが誕生した、そんな時代に、マイブラの『ラヴレス』と、僕は生まれた。特に深い意味は決してない。ただ、憧れは当然あった。
僕らの世代は、いわゆる、90年代の音楽に夢を見ながら生きてきた世代だと言えないだろうか。“僕らが生まれてきたときに鳴っていた音楽”は、決してリアルではないながらも、2000年代以降のUSハードコア、UKガレージが生まれるきっかけを作った、一つ前の世代だ。それらの音楽が一体どんな音楽によって生まれたのかは、やはり気になるし、少し上の世代が聴いてきた音楽が持ち得る、空気感を味わいたいという気持ちを、僕は常に持って生きてきた。
今回の新木場スタジオ・コーストでの、マイ・ブラッディ・ヴァレンタインのライヴは、これまで抱いていたそんか憧れが、まさに目の前で具現化したような、夢のような体験だった。しかし、今回の新木場でのライヴは、僕がこれまで抱いていた彼らのイメージを覆すきっかけにもなったのだ。ギターのフィード・バック・ノイズは想像した通り、その音量はかなり大きかったが、同じくらいのボリュームでドラムやベース、いわゆる、低音が鳴っていたことにまず驚く。やはりグランジとテクノの間に生まれた音楽だけあって、根底にシューゲイザーがありながらも、しっかりとビートがあり、ダンス・ミュージックとしての側面を垣間見ることが出来たのは、ライヴに行かなければ分からなかったことだ(まさかマイブラで踊るなんて…!!!)。
壊れたマーシャルなどお構いなく、眈々と展開される曲たちに、僕はそんなことを考えることしか出来なかったが、最後の曲、“ユー・メイド・ミー・リアライズ”の耳を劈くような爆音ノイズとすべてを包み込んでしまうような淡いVJは、そんなことをも忘れさせ、僕を遠い世界へとトリップさせてくれた。
ギターのケヴィン・シールズは、今回の来日に関して、とあるインタビューでこんなことを言ったそうである。「凄くやばい音を出すから楽しみにしてて」
実際に、この音響は現代だから鳴らせたのではないと僕は思う。彼らは新しいバンドでは決してない。しかし、新しいチャレンジをしている。
いまでも「夢見ることを諦めない」のは、僕らリスナーだけではないのかもしれない。